ここ数日仕事で城を離れていたコンラートはこの国で最も尊い存在の元へと急いでいた。

今、血盟城では新年を祝う式典が行われている。

式典の中心となっているであろうその人は、あまり形式的な行事を好む人ではない。

そろそろ限界だろう。

早く連れ出した方がいいかもしれない。

何より、一刻も早く彼に会いたい。

コンラートは歩く足をはやめた。


近づくにつれ、がやがやと賑やかな声が聞こえてくる。

式典をお開きにして無礼講の宴会でも始めたのだろうか。

コンラートは酔いころげているであろう血盟城の面々と、そしてその面々を相手に困っているであろう

彼を思い浮かべて思わず苦く笑う。

皆やたらと陛下にからんでいそうだな。

特に王佐と婚約者。

早く助け出さないと彼が汁まみれになってしまう。

血盟城の中で一際賑やかなその部屋の扉を開く。

そこには予想通りの光景が広がっていた。

貴族だけでなく、城の兵士やメイドまでもが気兼なく酒を酌み交しながら談笑している。

普通なら有り得ない光景だが、他でもない彼が望むことだから。

胸が温かくなるのを感じながら、コンラートは彼の姿を探す。

「ユーリ」

玉座に彼の姿を見つけて足早に近づく。

案の定彼の両脇は王佐と婚約者が固めていた。

彼の漆黒の瞳がコンラートに向けられる。


「こんりゃっどーっ!」


「っ!?ユーリ!?」

ろれつのまわらない声で呼ばれて驚く。

そういえば彼の頬がいつもより赤く染まっているような・・・

「ユーリ!まさかお酒を飲んだんですか?」

「のんだのんだ〜あはは〜っ」

側によったコンラートの背中を叩く彼はひどく上機嫌だ。

「禁酒禁煙はどうしたんですか?」

「え〜なに〜?」

駄目だ。完全に酔っ払っている。

とりあえず何があったのか聞こうとコンラートは王佐であるギュンターに目を向ける。

するとギュンターは困った様子で話し始める。

「どうやら陛下はジュースとアルコールを間違えて飲まれたようで・・」

「この程度で酔っ払うとは全くユーリは本当にへなちょこだなっ!」

二人の返答に小さくため息をつくと、再びユーリに目を向ける。

酔ったせいで潤んだ瞳で見返されてどきりとするが、コンラートは平静を装ってその火照った額に手を

おく。

「結構酔っているみたいですね・・。陛下、部屋に戻りませんか・・?」

「ん〜・・・っ・・・」

冷たいコンラートの手が気持ちよいのか、ユーリは手に額をこすり付けようとする。

「ユ、ユーリっ」

猫のような仕草に思わず抱きしめたくなるが、すんでのところで思いとどまる。

「あっ!ユーリ!何をべたべたしているっ!!はーなーれーろーっ!!」

「うあっ!?」

「あ、こら、ヴォルフラム・・」

ヴォルフラムはコンラートの手を掴むとユーリから無理やり引き離す。

「まったく!本当にお前は尻軽だなっ!」

「う〜・・」

コンラートの手を奪われたユーリは恨めしそうにヴルフラムをにらみつける。

「陛下、もうおやすみになっては?眠いでしょう?」

ヴォルフラムを制しながらコンラートはユーリに手を差し出す。

「さあ、部屋に行きましょう。」

反応なし。

ユーリは手を取ることはせずに、ただじっとコンラートを見上げる。

「・・・ユ、ユーリ・・・?」

「ん」

ちょいちょい

ユーリは手招きをする。

困惑しながらもコンラートは体を近づける。

と。

がしっ

「っ!?」

いきなり首に腕をまわされる。

がしっ

「っ!!!!!?」

さらにユーリは足までからめてコンラートにひっつく。

まるでゴアラのような姿で密着されてしまった。

その場にいる三人はただ呆然としていて言葉も無い。

「ん〜こんらっど〜」

すりすりとユーリはコンラートの頬ずりする。

その瞳は幸せそうに細められていて。

「あ、あの・・ユー・・リ・・っ?」

嬉しくないわけがない。

おいしくないわけがない。

しかしここで理性を手放すわけにはいかない。

コンラートは狼狽しながらもユーリが落ちないようその体に手をまわす。

「お、お、お・・お前らーっっ!!何をしているーっっ!!!」

稼動開始したらしいヴォルフラムが騒ぎたてて再び二人を引き離そうとする。

しかしユーリは一体その細腕のどこからそんな力が出るんだというほどの力でしがみついていて離れ

そうも無い。

むしろ離そうとすればするほどその力は強くなっているようだった。

「ヴォルフ・・陛下が落ちたらどうするんだ・・!俺はこのまま陛下を寝室にお連れするから、お前はこ

こに残るんだ。」

「なに〜っ!?何故お前がユーリを連れて行くんだ!僕が連れて行く!」

「・・・。お前は陛下の婚約者だろう?陛下の不在を埋められるのはお前しかいないんだ。」

もちろん。

既に酔いつぶれる者の出ているこの場でユーリがいなくなっていたとしても別段構わないのだろう

が。

しかしヴォルフラムはそれに気づかない。

「む。それもそうだな・・何ていったって僕はユーリの婚約者だからな!ユーリの不在を埋められるのは

僕しかいない。わかった。」

弟が純粋で良かった。

コンラートは心の中で密かに呟く。

「そうだ。後は頼んだぞ、ヴォルフ。」

「ああ!まかせろっ!」

胸を張るヴォルフラムに安堵する。

情けない顔でこちらを見ているギュンターに一言後は頼むと告げると、コンラートはそそくさとその場を

辞した。

正直、これ以上理性がもつ自信が無かったのだ。



ユーリの体を支えながら、何とか寝室のドアを開く。

魔王専用の大きなベッドにユーリを寝かせようとする。

しかし足はなんとかはずれたものの、首に回された腕をどうしても緩めてくれない。

「ユーリ・・眠いんでしょう・・?」

「ん・・・」

ユーリはむずがるようにコンラートの首元に顔を埋める。

首筋に感じる温かな吐息に体が熱くなる。

「ほら、ユーリ・・離さないとキスしますよ?」

言いながら艶やかな黒髪に口付ける。

「どうしたんですか?俺がいなくて寂しかった・・?」

そうだといいなと思いながら聞いてみる。

しかしユーリが言葉を紡ぐことは無く、代わりに首に回されている腕に力がこめられた。

そんな可愛らしい反応にコンラートは目を細める。

「ね、今日はずっと傍にいますから・・。これじゃユーリに口付けられないから、手、緩めて?」

優しく髪を梳きながら言えば、ユーリは素直に腕の力を緩めた。

ようやくユーリと向き合えるようになって、コンラートはその形の良い唇に口付ける。

深く。貪欲に。

久々に味わうその甘さにくらりとする。

「ん・・・っ」

「ユーリ・・」

名残おしげに二つの唇が離れて、銀色の色が二人をつなぐ。

どちらのものかわからない唾液がユーリの頬をつたい、コンラートはそれを指で拭った。

熱っぽいユーリの瞳がコンラートを捕らえる。

「コンラッド、だいすき」

言葉と共に、ちゅっと音をたてて触れるだけのキスをされた。

「ユー・・っ」

ユーリの腕は完全にコンラートの首から離されて、白いシーツの上へと落ちる。

そして聞こえてくるのは安らかな寝息。

コンラートはらしくもなく赤面するのを感じて、誰も見るものはいないのにその顔を片手で覆う。

「・・まいったな・・」

新年早々、驚かせてくれる。

こんなにも自分の心を乱す存在に戸惑いつつも、それ以上に幸せを感じる。

「貴方には、今年も振り回されっぱなしなのかもしれないな。」

あどけない顔で眠るユーリの顔はどこか幸せそうに微笑んでいる。

「貴方にとって・・幸福な一年でありますように。」

額に口付けを落とす。

「俺はどうなってもいい。どうかユーリに幸せを―・・」

と、言おうとしたところでタイミングよく寝返りをうったユーリの腕がコンラートの顔に直撃する。

「っ!」

彼が起きていたら怒られそうな台詞だっただけに、まさか起きたのかと危惧するがそうではないらしい。

彼の安らかな寝息が途切れることは無い。

「本当にまいったな・・俺も一緒に幸せにならないと駄目なんですか?」

返事を期待することなく言うとユーリがこくりと小さく頷いたような気がして。

コンラートは思わず噴出してしまう。

彼の存在が、こんなにも自分を幸せにしてくれる。

「じゃあ、一緒に幸せな年にしましょうね。」

ユーリの手をそっと握る。

ベッドの傍に跪くようにしてその手に口付けた。

明日ヴォルフラムあたりに見られたら面倒なことになりそうだが、今夜はこのまま手を繋いで寝てしま

おうか。

自分がヴォルフラムより早く起きれば何ら問題ない。



「明けましておめでとう、ユーリ。」



昔と変わらない手の温もりに涙がでそうになる。

ああ。

今年も、来年も、再来年も。

ずっとずっと。

自分はこの温かな存在を守るために存在するだろう。






「俺も、愛しています。」





心からの想いを、ただ一人貴方だけに捧げる。
















A HAPPY NEW YEAR!

















昨年は本当にお世話になりました!

今年もどうぞよろしくおねがいします。

2006年はコンユが幸せな年になりますように・・(え)

(フリー配布期間は終了しました)

2006.01.06














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