今日はユーリとヴォルフラムが二人で出かける日で、護衛の任務は無かった。

ユーリの護衛が無いといってもそれなりに仕事はある。

だが、何もする気になれず、グウェンダルに頼んで休ませてもらうことになった。

どこにいても、何をしていても頭に昨夜のユーリの表情がチラついた。

傷ついたような、怯えたようなユーリの顔。

あんな顔をさせたくなんてなかったのに。

少しでも気を紛らわせようと、コンラートは城下で酒をあおっていた。

所謂、自棄酒だ。

しかし自分は酒に強いらしく、中々酔えない。

こうしているのも馬鹿馬鹿しいと思い、勘定をすませて外に出ると、聞きなれた声に名前を呼ばれた

ような気がした。

胸騒ぎがして、コンラートは声が聞こえた方へ走った。


―悪い予感はあたるものである。


人通りの少ない裏路地に入った時、男に迫られているユーリの姿が目に飛び込んできた。

それからはもう、すっかり頭に血が上ってしまって、体が勝手に動いていた。




あれから、血相を変えてユーリを探していたヴォルフラムと合流し、無事に血盟城へと帰って来た。

どたばたと時間は過ぎ、もうあたりは闇に包まれている。

コンラートは自室でぐったりとしていた。

ヴォルフラムにはきつく灸をすえた。

しかしそう言う自分は昨夜、ユーリに先ほどの男を同じようなことをユーリにしたのだ。

とてつもない自己嫌悪に襲われる。

コンラートが小さく息を吐くと、コンコンをノックをする音がした。

この叩き方には覚えがあった。

まさかと思いつつ扉を開くと、やはりそこにいたのは予想に違わぬ人物だった。

「ユーリ・・・」

現れた人物にコンラートは目を見開く。

昨日あんなことをされたというのに何故この部屋に来たのだろうか。

彼が来てくれた嬉しさと、一体何かのかという不安がないまぜになる。

「どうしたんです?」

「ん。今日のこと、お礼言いたくてさ。」

少し照れくさそうにユーリは笑って頭をかいた。

その表情に安堵して、コンラートはいつの間にかつめていた息を吐き出す。

「コンラッド?」

下から不思議そうに覗きこんでくるユーリに得んで、なんでもないと告げる。

「護衛として当然のことをしたまでですから。」

というより、ユーリが男に口づけられそうになっているのを見たら、カッとなって体が勝手に動いていた

だけなのだが。

「護衛・・か・・」

つぶやいたユーリの声には不満が含まれていて、何かまずいことでも言ったのだろうかと不安になる。

「ユーリ?」

「あのさ、コンラッド。」

「何ですか?」

ぱっと表情を真剣なものに変えてユーリはコンラートを見据える。

「コンラッドって、休みとかって欲しいと思う?」

「・・休みですか?」

「うん。休み。コンラッドってさ、いつも働きっぱなしじゃん?コンラッドだってたまには・・そのーほらっ!

女の人と遊んだりしたい時ってない?」

ぐらり。

眩暈がしたような気がした。

一体何を言い出すんだろう。

「いえ、俺はユーリの傍にいるほうが楽しいですから。」

笑顔を取り繕って言えば、ユーリはどこかほっとしたような表情をする。

何故、そんな顔をするんだろう。

それから少し思案して、ユーリは言う。

「えと、さ。コンラッドって欲求不満とかじゃ、ないよね?」

「え?」

まさか、昨夜のことを言っているのか?

だからこんなことを急に言い出したのだろうか。

「ユーリ。」

優しい人だから、あれからきっと悩んでいたのだろう。

そして自分のことを考えて、それでこんなことを言ってくれたのだ。

しかし、あんなことをしたのはユーリだからだ。

ユーリ以外の人には、しようなんて思わない。

その心遣いは嬉しいが、ユーリは自分が女と遊んでも平気なのかと哀しくなる。

とりあえずその誤解は解いておきたくて、コンラートはユーリをベッドに腰掛けさせて、言った。

「昨夜のことは、本当に申し訳ありませんでした。ですが俺は欲求不満だったわけではありません。」

「そうなの?」

「はい。昨夜は、少し、疲れていて・・。臣下にあるまじき行為をしてしまいました。本当に申し訳ありま

せん。もう二度と、あのようなことはしません。罰なら、いくらでも受けます。」

苦し紛れの言い訳と、謝罪。

ユーリにはどう伝わったのだろうか。

その顔を見るのも怖い。

俯いて。

その漆黒から逃れようとした。

「それは本当にもういいってば!今日助けてくれたからそれでチャラ!おれも疲れてるところに来ちゃ

ったんだし・・ごめんな・・?」

しかも今日も来ちゃってるし!!と焦るユーリに少し笑う。

何故こんなにユーリは優しいのだろう。

愛しいと、心から思う。

だからこそ、今度はもう傷つけたりはしない。

「構いません。ユーリが来てくれるのは嬉しいんですよ。」

「本当っ!?よかったー」

ユーリはぱあっと明るい表情になる。

この笑顔を、守りたいんだ。

「ですが、臣下の部屋に主が来るというのは少々問題がありますから。呼ばれればいつでも俺が陛下

の部屋に行きます。だから俺の部屋に来るのは―・・」

もう、やめてください。

「コンラッド・・」

主と臣下、しっかりと線を引かなくてはならない。

もう二度と、期待を抱いたりしないように。

「すみません」

やはりユーリの顔は見れなくて、俯いたまま言う。

ユーリが言葉を発することはない。

そのまましばらく時間が流れた。

「あ、あの・・さ・・。」

戸惑いがちにユーリが口を開く。

「はい・・」

「あんたが何かに悩んでるってことはわかるよ。それですごく傷ついてるってことも。でも何で傷つい

てるのかわからないんだ。言ってもらわなきゃ、わからない。」

「ユーリ・・」

ユーリの瞳は、切なげに揺れて、それでも強い力を宿してコンラートを見つめる。

「突然、臣下臣下って言われるのも、嫌だ。何でおれと距離をおこうとするの?コンラッドは義務でおれ

の傍にいるのか?」

「ユー・・リ?」

どうしてそんなことを言うんだ。

そんなことを言われたらユーリも自分が好きなのではないかと、思ってしまう。

都合よく解釈しそうになるのを頭を振って止める。

そんなわけがない。

まだ自分は期待しようとするのか。

そしてまたこの人を傷つける気なのか。

「それでも、ユーリが主で、俺が臣下なのは事実ですから。」

絶対に言うわけにはいかない。

沈黙が続いた。

気まずさにユーリの顔を覗く、と、突然転地が逆転した。

「ユ、ユーリっ!?」

コンラートの体はベッドの上に押さえつけられ、ユーリに馬乗りにされていた。

あまりのことにコンラートは目を瞠る。

抑える腕の力は容易にはねのけることのできるものであったが、その震える二本の腕をおしのけること

なんて、できるわけが無かった。

「臣下臣下って、言うな!!」

動揺して動けずにいると、ユーリの顔がゆっくりと近付いてきて、そして、口付けられた。

触れた唇は微かな震えをコンラートに伝えて、すぐに離される。

呆然とユーリの顔を見上げると、真剣なまなざしに射抜かれた。

「お願いだから・・」

切なげな様子を見せたかと思うと、すぐにユーリの顔は真っ赤に染まった。

「うあーっ!!って、何やってんだよおれ!!ごっ、ごめんなっ!コンラッド!こ、これってセクハラ!?

セクハラだよね!?」

ユーリは慌てて体を引くと、眉毛をハの字にさせて謝ってくる。

顔が赤くなるのをなんとかしようと顔をこするが、赤みがひくことはない。

「ユーリ・・?」

素早く身を起こしてユーリを見ると、物凄い勢いで顔をさらされた。

「ごっ、ごめん!!あ、でもこれで昨日のは本当にチャラだな!あははっ!」

確かに、昨日とは立場が逆転してしまった。

「ご・・ごめん・・っ」

耳まで赤くしてユーリは俯く。

微かに震える首筋。

昨夜の光景が蘇る。

「ユー・・」

「おれっ・・!」

名を呼ぼうとすると、彼の強い声に遮られた。

ユーリは赤く染まった顔をあげて、

「コンラッドのこと好きだ!」

言った。

「何、を―・・」

言っているのだろう。

まさか、そんなことが。

ぐらりと世界が揺らいだ。

「あーっ!!わかってる!コンラッドはモテるしおれみたいなのはおよびじゃないってわかってるけど

ただ、言うだけ言っておきたかったんだ。」

気づいたから、言わずにはいられなかった。

消えそうな声なのに、その言葉はコンラートの中に響く、強く。

「べっ、別に気を使ったりしなくていいからな!すっかりぽんと忘れてもらってかまわないから!

うわーっ!何かすごいわがままなことばっか言ってるよな、おれ。ごめんっ」

「ユーリ、あの」

「こんなんじゃ・・コンラッドがおれを頼ってくれないの、当然だよ・・な・・!」

ユーリはもう一度ごめんと言って、踵を返す。

走って部屋を飛び出そうとしていくユーリの腕を慌てて掴んだ。

「うわっ!?」

引き止めて何を言うつもりだろう。

その時コンラートは何も考えていなかった。

ただ、今ユーリを引き止めなければ、永遠にその存在を失うような気がした。

強い力で掴まれてバランスを崩すユーリの体を後ろから抱きしめる。



「好きです。」



絶対に言うことは無いと思っていた言葉を、気がつけば言っていた。

「え・・」

「好きです。ユーリが、好きです。誰にも渡したくない。」

箍が外れてしまったかのように、今までせき止めていた感情があふれ出す。

「キスをしたのも、貴方が好きだからだ。」

腕の中におさまる、まだ発達途中の細い体を強く抱きしめた。

ユーリの手が、戸惑いがちに自分の腕に添えられる。

「好きです」

緊張で、声が掠れた。

本当にこれが現実なのかよくわからない。

「あ、の・・本当に?おれなんかで・・いいの!?」

震える声で言って、ユーリはコンラートの腕に添えた手に力をこめる。

そんな様子が愛しすぎてどうしようもない。

「はい。大好きです。」

耳元で囁けば、腕の中の体が小さく震えた。

「この気持ちは、貴方を傷つけはしませんか・・?」

「そっ、そんなわけない!」

「じゃあ、俺はユーリを好きでいていい?」

「い、良いに・・決まってる!」

「ありがとう」

嬉しくて、腕の中にユーリがいることが奇跡のようで。

離さない様にきつくだきしめる。

こんな気持ちを受け取ってもらえるなんて、思わなかった。

もぞもぞとユーリが体を動かす。

流石に苦しかったかと腕の力を緩めると、ユーリは体を反転させてコンラートと向き合うようにした。

ぺちっと頬に温かな掌が当てられる。

「あ、顔。」

「?俺の顔がどうかしましたか?」

「元に戻ってるなあって。」

「元に?」

「うん。ずっと悲壮感漂う顔してたんだよ、あんた。気づいてなかった?」

ユーリは呆れたように、そして安心したようにほっと息をつく。

心配、してくれたのだ。

「それは気づきませんでした。・・でももう、大丈夫です。幸せですから。」

今度は正面からユーリを抱きしめて、その艶髪に口付ける。

「うわっ!?こ、コンラッド!?」

「貴方が俺の主で、俺が貴方の臣下であることは、事実です。ですが、俺が貴方の傍にいるのは、

義務だからじゃない。貴方が誰よりも大切だからだ。」

「コンラッド・・」

ユーリが胸に顔を押し付けてくる。

黒髪から覗く肌はやはり赤い。

「ユーリ。」

「なに?」

「口付けてもいい?」

その言葉にユーリの体は一瞬びくりとはねる。

初心な反応が可愛くて、思わず笑みがこぼれた。

するとユーリが顔をあげて睨み付けて来る。

そんな顔さえ可愛くて、自分も相当重症だと思う。

否、実際可愛いのだから仕方が無い。

抱いていた手をユーリの頬に添える。

覚悟を決めたようにユーリはきつく目をつむる。

そして二人は、初めて同意の上の口付けをかわした。

「んっ」

唇は殊更優しく触れて、すぐに離れていく。

信じられないような現実に、幸せに、くらくらと眩暈がした。

どうしようもないくらい幸せだ。

「ユーリ・・」

きっともうこの存在を自分は離せないだろう。

こんなにも自分の心を温かくしてくれるのは、一人だけだ。

「コンラッド」

守るつもりで、貴方を傷つけてばかりの自分を受け入れてくれてありがとう。

怖いくらいの幸せに、コンラートは目をつむる。


「明日もコンラッドの部屋に来てもいいよな?」


顔を頬を染めながらも悪戯に聞いてくるユーリに、コンラートは笑って頷いた。



これが、二人の始まり。





























***
終わりましたー!!
なんだろうこれは・・(汗)
ユーリは何か・・自分の気持ちをストレートにぶつけてきそうですよね。
そんなところがまた愛しいわけで・・!!(何)
しかし何故私の書くものは受が強くて攻が弱弱なんだろう・・orz
ここまでつきあってくださった方、本当にありがとうございました!!
感想などいただけると涙を流して喜びます・・(汗)






















2005.11.30

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