日の光に反射して、漆黒の髪がキラキラ光る。

真面目な顔で執務にいそしむユーリの様子を見ているだけで満たされるような

気がして、コンラートは笑んだ。

机ひとつ挟んだこの距離が、今のコンラートとユーリの距離だ。

越えてはならない、ギリギリのライン。







「おはははははは!」

赤い魔女は高笑いと共に、執務室へと入り込んで来た。

通常通りに執務をこなしていたユーリとグウェンダルは自然手を止めることとなる。

「ア、アニシナさん・・っ!?」

「一体何だというんだ!執務中だぞ!」

眉間にしわをたんまり刻んだグウェンダルに迫力たっぷりに怒鳴られても、赤い

魔女、アニシナが怯むことはない。

むしろグウェンダルの方が腰が引けている様子だ。

そんな二人を側に控えていたコンラートはどこか冷静に見つめていた。

「喜びなさいグウェンダル!新しい魔動装置のもにたあ第1号にして差し上げま

しょう!」

「ななっ、何だそれは!私はもにたあになど・・・っ」

ぱんぱかぱーん

どこから流れたのかわからない音楽と共に現れたのは一見してはごくごく普通の

赤い紐。

「なっなんだこれは?ただの紐ではないか。」

「あっ!グウェンダル!あんなところに可愛いらしいわんちゃんが!」

「何っ!?」

わんちゃんという言葉に思わず指差された方向を向く。

可愛いものは兄の最大の弱点だ。

コンラートは苦く笑う。

「えい」

しかしそれは赤い魔女の罠だったようだ。

気付いた時にはもう遅い。

グウェンダルの小指には先程の赤い紐がきっちりと結びつけられていた。

「な、何だ・・?」

あまりの手際の良さに、グウェンダルは口をぱくつかせている。

「ふっ。」

アニシナは、不敵に笑う。

と、

「うわ・・・っ!?なななっ!!!」

不意に悲鳴をあげたのはユーリだった。

「ユーリっ!?」

「わわわわわわわわっ!!?」

ユーリは座っていた椅子から転がり落ちると、そのままズルズルとグウェンダル

に引き寄せられていくようだ。

グウェンダルがアニシナのもにたあになるのはいつものことと傍観していたコン

ラートであったが、慌ててユーリに駆け寄る。

ユーリに何かあってはたまらない。

しかし、あっと言う間にアニシナ印の赤い紐がユーリの小指を巻きとった。


「え・・っ!?」


「ユーリ!大丈夫ですかっ!?」

慌ててユーリを抱き起こす。

黒い美しい前髪がさらりと流れて、ユーリが顔を上げる。

その瞳は、今自分を抱きかかえているコンラートを見る気配はない。

その視線は、一心に椅子に座ったままのグウェンダルへと注がれた。

そんなユーリの様子に、コンラートは知らず嫌な予感がした。

グウェンダルも、ゆっくりとユーリに目を下ろす。

するとどうだろう。

グウェンダルとユーリは目があった途端に、ぱっと頬を赤らめるのである。

それはまるで、お互い、相手に恋をしてしるかのように。

「アニシナ・・一体二人に何をしたんだ・・?」

嫌な予感はどうやら的中してしまったようだ。

やれやれといった様子でコンラートはアニシナを見る。

「なんですかコンラート!そのぐったりした顔は!いいでしょう。説明して差し上げ

ます。人は赤い紐で繋がれている相手と結ばれると言いますね。」


正しくは赤い糸なのだが。


「しかしそれは見えない!ならば、そんな見えないものに頼らずにこちらから繋い

でしまおうという画期的かつ斬新な発想の元に完成した魔動恋愛成就機かって

につなげ〜る君です!」

呆気にとられるコンラートの隣では、相も変わらずグウェンダルとユーリが見つめ

あっている。

それはつまり、グウェンダルとユーリが結ばれてしまったということなのか?

「グウェン・・あの・・おれ・・っ」

恥じらうように、目をそらしながらユーリは言う。

「いつまでそうしているつもりだ・・早く立て。」

「あ・・・」

対するグウェンダルは落ち着いた様子で、言動もいつも通りだ。

しかし、行動がおかしかった。

コンラートに抱えられたままのユーリの手を取ると、当然のことのように己の膝の

上に座らせてしまったのである。

「グ、グウェン・・っ」

「どうした?ユーリ」

名を呼んでユーリを見つめるグウェンダルの表情はこの上なく優しい。

手は自然な動きでユーリの腰に回され、ユーリはさらに顔を赤くする。

「・・アニシナ・・・」

頭がひんやり冷たくなっていくのを無視するように、甘い雰囲気で包まれている

二人から目をそらした。

アニシナの道具のせいとはいえ、自分にとってあんなユーリの姿を見るのは楽

しいわけがなかった。

「なんですか?」

「これはすぐに外れるんだろうな?」

「紐はサクっと切れますが、効果は消えません!・・しかしこれでは手当たり次

第近くにいる人と結びついてしまいますね・・よってこれは失敗です!」

ビシッと赤い魔女は言い放ち、もう用は無いとばかりに執務室を後にした。

まるで台風だ。

そして残されたのはバカップルと化したグウェンダルとユーリ、そしてユーリに想

いを寄せているコンラートだ。

「・・ユーリ・・ちょっと失礼します・・・。」

スパッ

綺麗な動作で剣を抜き、そのままグウェンダルとユーリを繋ぐ赤い紐を切る。

「あっ?」

「何をしている?コンラート」

「紐は切れました。そのままでは執務がしにくいでしょう?離れて下さい。」

「うわっ」

コンラートはユーリの背中と膝裏に手を回し、抱き上げる。

「ちょっ・・!?コンラッド!?」

「グウェン。悪いが、陛下は少しお疲れの様子だ。お休みになってもらう。」

グウェンダルが何かを言う前に、素早く部屋から出る。

道具の効果が切れれば、ユーリは正気では無い時にしたことを恥じて悶えるは

ずだ。

恋愛経験の少ないユーリならば、キスひとつでも大事だろう。

少しでも被害を少なくするためにはグウェンダルとユーリを引き離すのが最良の

手段だった。

ユーリのためだけを考えてした行動とは、いいきれないが。

腕の中のユーリはもちろん暴れたが、関係無い。

「ちょっ!コンラッド!おろせってば!おれ仕事中っ!」

「グウェンダルに抱き抱えられて・・とても仕事をしてるようには見えませんでした

が?」

そんなにグウェンダルの側にいたいのかと、少し胸が苦しくなる。

アニシナの道具のせいだと言い聞かせても、どうしようもない。

腕の中のユーリに目線を下ろせば、ユーリは少し怯えたように身体をこわばらせ

た。

「だ・・って・・」

そんなユーリの様子に溜め息をつくと、彼が好きだと言ってくれた笑顔を浮かべ

る。

少しでも、ユーリが安心できるように。

「大丈夫。今日中にやらなければならないような仕事はもう終わっていますから。」

「でも・・・っ!グウェンはまだ仕事してるんだろ?悪いよ・・」

それにグウェンの側にいたいし、と、ユーリは続ける。

「ユーリ・・」

ユーリが、いつか誰かを好きになる日は必ずくるだろう。

純粋でまっすぐな彼の気持ちが、一心に、ただ一人にだけ向けられる日が。

「ユーリ・・」

「グウェンに、迷惑かけたくない・・。」

切なげに揺れる瞳で見上げられて、コンラートは言葉を失う。



「グウェンのことが、好きですか・・?」


やっと出した言葉に、自分自身で驚く。

何故こんなことを聞いてしまったのだろう。

答えなどは決まっている。


「・・・うん、好きだよ・・」


わかっていたはずの答えに、力が抜けていく。

そっとユーリを降ろして、優しく笑んでみせた。

「コンラッド・・?」

「じゃあ、戻りましょうか。人の恋路を邪魔するとウニに刺されて死ぬって言いま

すしね。」

「ウ、ウニッ!?こっちの世界じゃウニなの!?」

「さ、ユーリ」

ぽん、と、ユーリの肩をたたく。

それにあわせてユーリは執務室へと歩き出そうとする。

グウェンダルのところに戻れるからか、嬉しそうなその横顔にたまらなくなる。

「ユーリ・・」

肩膝を地について、ユーリの肩をつかんで、目を合わせる。

「コ、コンラッド?!どうし──・・」

戸惑うユーリの頬に、手を伸ばす。

強くふれたら壊れてしまいそうで怖くて、本当にそっとふれた。

それでもユーリの熱は、掌に伝わってくる。

「どうか、したの?・・コンラッド?」

いつか、アニシナの魔動装置のせいではなくて、ユーリが心から好きだと思う人

ができた時、自分は冷静でいられるだろうか。

今と同じように、この人が好きなのだと言われたら、自分は──・・

「コンラッド?」

大切な人が自分を呼ぶ声にはっとする。

「ああ・・ゴミがついていましたよ?」

おざなりな嘘をついてごまかす。

知れたことだ。

温かい熱が名残惜しくて、手を離してから、もう一度だけふれて、そうしてやっと

ユーリから離れた。

「ありがとう!」

「いいえ」

疑うことを知らない笑顔。

「あ、おれ、グウェンとは違う好きだけど、コンラッドのことも好きだからな!」

そう言って笑う彼に、一瞬固まる。

それは、何より残酷な言葉なのだということを、彼は知らない。

しかしコンラートは笑顔をくずさなかった。

「俺もユーリが好きですよ」

そして今度こそ、二人は執務室へと歩き出した。




ほどなくして、赤い紐の効果はきれた。

正気に戻った時の二人の動揺ぶりといったらなかった。

グウェンダルは自室に引き込もって未だに出てこない。

ユーリもユーリで予想通り悶えている。

「あーあーあー!!信じらんね〜っ!!なんであんなことしたんだおれ!!」

「落ち着いて、ユーリ」

「あーでもマジでヴォルフラムとかに見られなくて良かった!・・ってか、なんであ

んたも止めてくれなかったんだよーっ?」

「止めようとしたんですが・・ユーリがあんまりにもグウェンが好きだと言うので、

止めるのも可哀想だったんですよ。」

「だーっ!!そんなこと言ったのかおれーっ!!」

「ユーリの望みが、俺の望みですから。」

「・・・コンラッド?」

願うことなら、どうかこの気持ちがこの人に知れることがありませんように。

そうすれば、自分はこの人の側にいることができるし、何よりそのことが、この人

の笑顔を守ることになるのだから。

「さ、気分転換にキャッチボールにでもいきませんか?」

「あ!いくいく!こんな時は野球やって全部忘れてやる〜っ!!」





この先いつか、ユーリが赤い糸で繋がれている相手と幸せになるのを、心から

祝福できる自分でありますように。

コンラートはどこか眩しそうに、先を行くユーリの背中を見た。




















そんなコンラートがユーリに特別な想いを向けられていることを知るのは、もう少

し先の話である。


















***
リハビリ・・・(汗)
うっかり小説の書き方を忘れた模様です(汗)
そのうち書き直すかもしれません・・;;;







2006.04.10


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