目の前には綺麗な世界が広がっていた。



魔族と人間との対立は次第に無くなった。

多くの戦いを経て、ようやく、長い間求めてきた平和がそこに生

まれつつあった。

「コンラート!」

男にしては高い声に呼ばれてコンラートは伏せていた目をゆっく

りと開いた。

すると弟のヴォルフラムが眉間にしわをよせながらこちらに向か

って来るところだった。

弟が最近するようになったこの表情は、コンラート達の長兄にひ

どく似ている。

大人になったのだ。

そう思う。

最も彼に影響を与えたであろう少年を思い、自然と顔は笑顔の形

を作る。

「一体何をしているんだ!」

叫ぶ弟の声に少し苦笑しながらコンラートは再び目を閉じた。

側にいなくてもすぐに思い出すことができる。

あの誰をもひきつけてしまう笑顔を。

艶やかな黒髪を。

黒く濡れる瞳を。

すべてを思い出すことができる。

手を握ればあの夜ふれたあの人の温もりがよみがえる。

涙に濡れた瞳が綺麗で、魅入ってしまったことをよく覚えてい

る。

自分を受け入れてもらえたことが最高に嬉しくて、幸せだった。

朝までずっと手を握って、あの人が眠ったのを見ると気付かれぬ

ようこっそりと口付けを落とした。

愛しいと、思った。

「ユーリ」

少年が心から望んだ世界がここにある。

皆が笑いあえて、幸せで。

戦争もない。

何度も傷つきながら、それでも諦めずに求めた世界。

「ユーリ」

理想の世界。





しかしその世界の中に少年は存在しない。





最後に少年は笑った。

これでいいんだというかのように。

優しくて、この世のものではないかのような綺麗な微笑み。

掴もうとした手はすりぬけて、コンラートの手はただ空を掴ん

だ。

守りたかった人に、守られた。

その痛みは年月のたった今でも薄れる事なくこの胸にある。

コンラートは目を開ける。

再び飛び込んでくる輝かしい世界。

少し気が弱くて、それでも大切なところではここぞとばかりに強

さを見せる優しい少年。

彼が存在しないこの世界をそれでも美しいと思えるのは、他でも

ない、彼が守った世界だと思うから。

少年が命をかけて守った世界だから。

綺麗じゃないはずがないよ。

「ユーリ」

あの時少年を守れなかった自分。

きっと少年は笑って許してしまうのだろう。

「いつか貴方のところに行きます。」

その時まで自分がこの世界を守るから。

この美しい世界を守ってみせるから。

そして役目をはたし、少年の元に行った時には、また隣りにいる

ことを許してくれるだろうか。

あの時掴めなかったその手を、今度こそ。

「コンラートっ!!お前聞こえているのなら返事ぐらいしたらど

うなんだっ!」

「ヴォルフ、この世界は綺麗だよな。」

コンラートの突然の問い掛けに、一瞬きょとんとしたヴォルフラ

ムだが、すぐにその表情を真剣なものへとかえた。

目の前に広がる景色を見据える。

「当たり前だ!」

強く言われた言葉に、コンラートは笑みを零す。

「そうだな。」

あの時少年を失った痛みを、誰しもが抱えている。

それでも前を見て歩けるのは少年が自分達に残したものがあまり

に優しかったから。


「愛しています」


これからもずっと。

前を向きながら少年を想う。



今でもありありと思い出せる少年の姿を思い出しながら、コンラ

ートは一歩を踏み出した。

「ところで、何か用があったんじゃないのか?ヴォルフラム」

「ああ、お前が変なことを聞くから忘れていた!グウェンダル兄

上が呼んでいるぞ!早く来い!」

「ああ、わかった。」





世界がいつまでも輝かしいものであるように。

少年の好きだったライオンズブルーの空はどこまでも遠く透きとおっていた。








































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