きらきら

光は螺旋状に連なってどこまでも続いていく

くるくるくるくる回りながら、何度も何度も光は輝いていた









「ユーリ、そんなに慌てなくても菓子は逃げませんよ。」

コンラッドは人好きのする笑みを浮かべながら、ごく自然な動作で前を歩く

おれの手をとった。

「わかってるって!でも、お菓子を楽しむ時間は減るんだよっ!ほら、急ぐぞコン

ラッド!!」

自然と笑顔になっていくのを感じながら、おれはぐいぐいとコンラッドの手を引っ

張って進んでいく。

そんなおれの様子にコンラッドはやれやれと苦笑すると、足早に歩く相手にあわ

せて歩調を速めた。

今日は執務の息抜きにと、コンラッドはおれを城下へと連れ出してくれた。

コンラッドがとても美味しいと評判のお菓子屋を見つけたと言うので、早速行って

みようということになったのだ。

その店はいかにも女の子が好みそうな可愛らしい外装で、男二人で入るのは

いささか気がひけたが、店から香ってくる美味しそうな匂いの誘惑には勝てなか

った。

おれはお忍びのために今は茶色に染められた髪を揺らし、店のドアを開けた。

そのまま案内された席に座る。

何だか落ち着かず、きょろきょろとと辺りを見渡してみる。

「なんかさ・・やっぱり・・女の子ばっかだよなー・・それか恋人同士・・おれ達絶対

浮いてるよな!?」

「そんなことありませんよユ・・坊ちゃん。・・・それに、俺達だって恋人同士じゃない

ですか」

最後の方だけ耳元で囁かれて、頬がカッと熱くなる。

こいつは何気なくこういう恥ずかしい台詞を言うから要注意だ。

「・・なっ・・!!」

おれの反応が予想通りだったようだ。

コンラッドは楽しげに笑って、運ばれてきた菓子をすっと差し出した。

「さあ、菓子がきましたよ」

そこで、からかわれたのだと気づいたおれはじろりとコンラートを睨んでから、

憮然としたまま目の前のクッキーに手を出した。

「ああ、ちょっと待って」

コンラートは口元にクッキーを運んでいたユーリの手を掴む。

「・・・え・・?」

その手をそのまま引き寄せられたと思ったら、すっと顔を近づけられる。

そして、ぱくり。

「味見です」

にっこり。

爽やかに笑っていうけれど、これは味見と言う名の毒見だ。

いい加減に慣れなくてはならないと思うけれど、これをされる度に未だにいたた

まれない気持ちになる。

って。

そ、それにしたって!!

「コ、コ、コ、コンラッド・・っっ!!?」

「どうかしましたか?」

「あ、あんたっ!何で指まで舐めるんだよっ!!?」」

「美味しかったですよ?」

何が!?指が!??

「ああ〜もうっ!いいよ!」

どこまでも余裕な表情のコンラッドを見ていると、こちらばかりが動揺しているのが

馬鹿らしく思えてくる。

本当に振り回されっぱなしだ。

お菓子と一緒に運ばれてきた紅茶を一気に喉に流し込んで、おれは今更ながらに

平静を装ってみた。

100歳近く年が離れているんだし、コンラッドの方がずっと大人で、余裕たっぷり

なのは仕方のないことかもしれない。

けれど、これでは自分ばかりがコンラッドのことを好きみたいで、たまらなく悔しい。

それ以上に、不安になる。

コンラッドはただ、子どものわがままに付き合ってくれているだけなのではないかと。

柄にもなくそんなことを考えてしまうのは、今日が初めてではない。

「ユーリ・・?」

おれの表情が変わったのを敏感に感じ取ったコンラッドは、心配そうにおれを

のぞきこんでくる。

「なんでもないっ!」

これ以上心配はかけたくないからと、おれは暗い気分を振り切るようにクッキーを

口の中に放りこんだ。

そしておれがクッキーの美味しさに思わず目を細めた時だ。

「きゃああっ!!」

「ふが」

店内に響き渡った悲鳴に驚いて、おれは咀嚼中のクッキーを喉につまらせる。

「ああユーリ・・大丈夫ですか!?」

素早くコンラッドが背中をさすってくれる。

喉にある異物感に目を潤ませながらも、おれは苦しさに震ながらも親指を一本

立ててみせた。

グッジョブ・・じゃ、なくて、もう一押し。

コンラッドは意味を察していくれたらしく、軽く背中を数回叩いてくれた。

「さ・・サンキューコンラッド・・もう平気・・ていうか何があったんだ・・?」

そこでおれはやっと周りを見渡した。

覆面を被った大柄な男と、首にナイフを突きつけられた女性。

まず初めに目に入った光景がそれだった。

「な・・っ強盗・・っ!?」

「そのようですね」

気づけばコンラッドはさりげなくおれを背中に庇ってくれていた。

「金を出せっ!早く!」

強盗の言う台詞っていうのは万国共通らしい。

「早くしないとこいつを殺すぞっ!?」

興奮した男の握るナイフが、女性の首に食い込む。

しっとりとした血が流れる。

「・・・なっ・・!!」

何もしていない人を傷つけるのが許せなくて、おれは気づかず足を動かす。

「ユーリ、お願いですからじっとしていて下さいね」

ここらがおれの我慢の限界だと思ったのだろう。

コンラッドに釘をさされる。

真剣な顔でそう言われてしまえば、嫌だと言えるはずがなかった。

それに、今この場でおれが何かをしたとしても、状況を悪化させてしまうだけだ。

一歩踏み出した足を戻して、素直に頷いたおれを確認したコンラッドは、男に

気づかれないように持っていたティースプーンを男の左側に放り投げた。

カチャン、

スプーンが地に落ちる音に、過敏になっている男はもちろん反応した。

自然、男は横を見る。

その隙をついて、コンラッドは行動した。

一瞬にして男の背後に回る。

「な・・っ・・・!?」

男が構えを取る前に、コンラッドは難なく男からナイフをもぎ取り、女性を

解放していた。

それは本当に鮮やかなもので、思わず見惚れそうになるほどだ。

「なんだお前は・・ッ!?
」

「おとなしくしてらおうか」


冷静なコンラッドに、男は動揺

を隠せなくなる。

何事かを叫びながら、服の袖から先ほどとは別のナイフを取り出した。

男はそれを振舞わす。

軽々とコンラッドはそれをかわすはずだった。

けれど、人質になっていた女性がナイフを見て、小さく悲鳴をあげながらコンラッドの

腕を掴んだ。

軽いパニックに陥ったようで、ヒステリックに何かを叫んでいる。

そのせいで、簡単にかわせるはずだったナイフが、コンラッドを傷つけた。

赤色の液体が散った。

おれから見えるのはコンラッドの背中で、どこを傷つけられたのかはわからない。

けれどあれは、血、だ。

他の誰でもない。

コンラッド、の。

ゆっくりとその事実を理解すると同時に、自分の体がカッと熱くなった。

もしかしなくても、いつものアレだ。

視界が揺らいで、意識が遠のく。

自分の体が自分の体じゃないかのような不思議な感覚。

「ユーリッ!?」

いち早くおれの異常に気づいたコンラッドが焦った声でおれの名前を呼ぶ。

そして次の瞬間にはナイフを持った男を投げ飛ばし、あっさりと気絶させると、

すぐにおれの傍へと駆け寄ってくる。

見えたコンラッドの頬からは男に切られたらしい傷があったが、それだけで、

他に怪我はないようだった。

「ユーリ、もう大丈夫ですから・・ユーリ・・ッ!?」

もうおれが魔力を使う必要は無い。

わかっている。

それなのに、体が言うことをきかない。

「あ・・っ・・!?」

今おれがしなくちゃならないことは、怪我をした人を治すための力であって、

誰かを攻撃するための力じゃない。

しかし、おれの手から生み出されたのは鋭い水の刃。

勢い良く流れ出たそれは、おれの意思とは関係無しにコンラッドへと向かう。

「ユー・・」

「い・・や・・っだ・・っ!!!」

声さえもうまくつむげない。

すんでのところで水をよけたコンラッドだったが、完全にはよけきれず、

水がコンラッドの腕を深く抉った。

再び、紅い血がコンラッドから流れる。

「う・・・・あ・・・コンラ・・・ッ・・」

息苦しくて喘ぐ胸をどうすることもできない。

こんなことはしたくないのに、次から次へと水が生み出されていく。

怖い怖い怖い。

自分じゃないものが自分を支配している感覚がたまらなく恐ろしかった。

自分のもつ魔力がこんなにも恐ろしい物に思えたのは初めてだった。

誰も傷つけたくなんてないのに――!!

思いとは裏腹に、おれは、最も傷つけたくない相手を傷つけている。

その事実に眩暈を覚えた。

いっそ意識がなくなってしまえばいいのに。

いつもみたいに、上様が出てきて、それで―・・

そんな無責任なことを考える。

けれど意識ははっきりとしていた。

「ユーリっ!!」

コンラッドが一歩を踏み出して来る。

来ないで欲しい。

もしかしたらおれは、彼をこのまま殺してしまうかもしれない。

そう思うと怖くて怖くてたまらない。

「く・・・んな・・・っ・・」

けれどコンラッドは足を止めなかった。

刹那の間があって、おれの視界は一面カーキ色に染まる。

痛いほどの力で、抱きしめられていた。

「コ・・・ン・・・・」

「ユーリ、もう大丈夫ですよ」

いつもの優しい声を耳元で聞いて。

おれはそこで、やっと意識を失った。





真っ暗になっていく視界と、ひどく鉄くさい臭いを強く感じながら――・・











***
本筋に全く入れてません・・orz
ちょっと長くなると思いますが、萌え要素が少ない気がしてなりません・・(いつも?;)











2006.05.21













 
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