彼のためになら、いくらでも自分を犠牲にしよう。

それが優しい彼を傷つけるのだと知っていても、それ以外の愛し方を俺は

知らない。










「薪ってこれくらいで足りるー?」

腕一杯に薪を抱えて、おれはコンラッドに尋ねる。

眞王廟に鳩を飛ばしてから数日、返事が返ってくるまでとコンラッドと二人で

湖の近くの小屋での生活を続けていた。

小屋にはある程度の食料が蓄えられていたが、薪などはとってこなくてはならない。

「ええ、十分です・・半分持ちますよ、ユーリ」

「いいって!あんたの方が一杯薪持ってるじゃん!筋トレになって丁度良いよ」

「そうですか?」

コンラッドは微苦笑して、おれにあわせるようにゆっくりと歩き始める。

過保護なところは全く変わっていないらしい。

「貴方にまでこんなことをさせてしまって申し訳ありません」

「何言ってんだよ。むしろこれくらいしないと罰が当たっちゃうよ」

身の回りのほとんどのことはコンラッドがやってくれるのだ。

せめてこれくらいの手伝いはしなくては。

「あんたとこうしてるのは楽しいけどさ、まだウルリーケからの返事は来ない?」

「・・・申し訳ありません・・」

何気なく聞いただけだったのに、コンラッドは本当に申し訳なさそうな顔で俯く。

「いや!あんたが謝ることないんだって!!こんな体験めったにできることじゃ

ないんだしさっ!」

だからそんな顔はしてほしくない。

「ただ・・」

「ただ?」

「ただ、元の世界のあんたも心配してんのかなって思ったら、さ」

「ああ」

意味も無く訳も無く自分を責めてるコンラッドの姿が容易に想像できてしまう。

迷惑かけっぱなしだ。本当に。

でも、まだコンラッドと会うのは怖いのだけれど。

「そうですね。きっと、あなたのことを想っているでしょうね」

「・・・そうかな?」

「ええ。他でもない俺が言うんだから間違いないですよ。俺はユーリのことが

好きで好きで仕方が無いんですから」

ふっ、と優しげな微笑を浮かべて言うコンラッドに、嫌でも頬が熱くなる。

「今だから白状しますけどね、俺、昔はユーリが地球からこちらに帰ってくるのが

待ちきれなくて、何度も地球に行こうとしていたんですよ?」

「地球に・・?どうやって?」

おれの知っているコンラッドからは聞いたことが無い話に、おれは目を見開く。

「そうだな。こっそり服も着たまま浴槽に足を突っ込んでみたり、あとは、ユーリが

初めてこちらの世界に来た時は水洗トイレを通って来たと言うので・・・」

「ま・・・まさかあんた・・・・」

「ええ。トイレに足を突っ込んでみました」

「えー・・・・・」

トイレに足を突っ込む爽やか好青年コンラッド。

見たくない。


コンラッドは昔を懐かしむような遠い目をして、穏やかに笑う。

「実際には地球に行けなくても、そうすれば少しでもユーリに近づけるような気がして」

「コンラッド・・・」

トイレで近づく二人の距離。

何のキャッチコピーだ。

頭の中でそんなツッコミを入れつつも、ドクドクとおかしなくらいに心臓の音が早くなる。

コンラッドの手が、優しくおれの頬に触れる。

いつものように、そのままゆっくりとコンラッドの顔が近づいてくる。

頭のどこかで煩いくらいに警鐘が鳴っている。

けれど体は壊れてしまったかのように動かない。

コンラッドの瞳に自分が大きく映っているのが見えて、たまらず目を閉じようとした時だった。

コンラッドの後ろに見えたもの。

おれの脇に抱えていた薪が派手な音をたてて落ちる。

その音にハッとしたようにコンラッドは手を離した。

「コ、コンラッド、あれっ!!火事っ!!!街の方っ」

見えたのは遠くにもうもうと立ち上る煙。

方角からして城下街だろう。

煙は一ヶ所だけではなく、あちこちから立ち上っていて、ただの火事とは思えない様相だ。

「何か様子が変だよな・・・コンラ・・っ」

目の前にいるコンラッドを見上げて、おれは固まった。

コンラッドは街の方向をじっと見据えている。

その顔に感情は無い。

おれが知らない冷たい瞳がそこにあった。

「コンラッド・・・?」

戸惑いながらも名前を呼べば、コンラッドは一瞬にしていつもの笑顔を浮かべた。

いつもの、そうだ。

それは確かにいつもの笑顔だった。

けれど何故だか空寒く感じて、おれは無意識のうちに唾を飲み下す。

「火事のようですが・・・直にしずまりますよ」

おれを安心させるため、なのだろうか。

コンラッドは殊更優しく言葉を紡いで、おれの肩に手を置く。

「だから心配しないで下さい。・・・さあ、日が暮れる前に小屋に戻りましょう」

静かなのに有無を言わせないコンラッドの言葉に、おれは従うしかなかった。

肩にのせられたままの手は、何故だかひどく冷たかった。












ここで初めて、おれはこの未来のコンラッドに僅かの違和感を覚えたのだった。





























***
短い・・・orz






2006.09.27




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