その時、俺の世界は色を失った。











コンラッドに言われるままに小屋の中に入ったものの、やっぱり外のことが気に

なって仕方がない。

「夕食です。大したものは作れなかったけど・・ユーリの口にあえばいいの

ですが・・」

一方コンラッドは先ほどのことなどなかったかのように振舞っている。

「あ、ありがとう・・・」

限られた食料と道具で作られたそれは簡素だがおいしそうだった。

けれど今はただ喉を通り過ぎていくだけで、味を感じない。

「ユーリ、美味しくないですか?」

「・・・え!?」

「先ほどから難しい顔をしているから、まずいのかと思って」

「そんな・・こと、ないよ!美味しいよ・・!」

「なら良かった」

そう言って笑う顔もどこか俺の知らない人のようで、不安になる。

「ユーリ・・?」

言いながらゆっくりとおれの頬にのばされたコンラッドの手を反射的に避けて

しまった時、ドオン、という大きな音が微かな揺れとともに聞こえてきた。

「・・・!?」

それは先ほどと同じ、城下町のほうから聞こえてきた。

一度ではなく、二、三度同じような大きな音がした後、ようやく揺れと音は治まった。

まるで、大きな爆発でも起こったかのような音だった。

「ちょ・・・っ!?やっぱりおかしいって!!何が起こってるんだよ!?」

「大丈夫。気にすることはありませんよ。」

気にしないでいられるわけがない!

おれはたまらず淡々と薪をくべていくコンラッドの腕を掴む。

コンラッドはそこでやっと動きを止めておれを見た。

コンラッドのこんなに感情のこもらない瞳を見るのは、初めてだった。

ひるみそうになるのをこらえて、コンラッドの腕を掴む手に力をこめる。

「気にならないわけがないだろ!?だってこの国はもう一つのホームなんだ!

そりゃ・・ここはおれのいるべき時代じゃないのかもしれないけど・・っ!

眞魔国であることにかわりはないんだよ!ほっとけるわけないだろ・・!?」

「ユーリ・・・」

「お願いだから行かせてよ!っていうか、おれは止められても絶対行くからな!

抜け出してやるっ!!」

おれは鼻息荒く言いきった。

すぐ熱くなるのはおれの悪い癖だ。

だけど、間違ってるとは思わない。

「・・・そうでしたね。貴方はそういう人だ。」

コンラッドは軽く目を閉じる。

もう一度目を開くと、こうなると思った、とでも言うかのような苦笑を浮かべていた。

それはおれが良く知る笑顔で。

ほっとした。

「コンラッド・・・!っ」

おれがよく知っているコンラッドの笑顔に、自然おれも笑顔になる。

「ですが、ユーリはここにいてください。」

「えー!!?」

「俺が行って様子を見て来ます。危険だからユーリはここにいて。これでも譲歩

してるんです。納得してください。」

「でも・・・っ!」

なおも食い下がると、コンラッドは厳しい顔をしておれの肩に手を置く。

「駄目です。もし貴方に何かあったらどうするつもりです?

貴方の時代の俺に俺が恨まれてしまいます。」

お願いします、と駄目押しのように言われてしまっておれは口を閉じる。

「・・・・・っ」

無言を承諾ととったコンラッドが続ける。

「ここにいれば安全なはずです。万一誰かが来たとしても絶対に戸を開けない

ように。いいですね?」

「・・・・・わかった。絶対に無事で帰って来いよ。」

「勿論。」

安心させるようにコンラッドは笑んで、肩に乗せていた手を離した。

そしてもう一度その手でおれの髪に触れようとしたけれど、その手が下りてくる

ことはなかった。

「それでは、行って来ますね。絶対に戸締りを忘れないでくださいね。」

「大丈夫だよ!子どもじゃないんだから。・・・やっぱりどこのコンラッドも心配性

なんだな。」

思わず噴出して、コンラッドの背中を軽く叩く。

「・・・頼んだ。コンラッド・・・」

「わかりました。大丈夫です。すぐに帰ってきますから。」

そしてコンラッドは、一人街へと向かっていた。







人気の無いこの小屋の中は、夜になるととても静かだった。

あまりの静寂に耳が痛くなりそうだ。

数時間前にここを出て行ったコンラッドはもう街についただろうか。

怪我なんて、してないだろうか。

抱えた膝の中に顔を埋めて、目を閉じる。

元の世界でも、未来でも、結局おれは守られてばかりだ。

自然漏れるため息ももう何度目か。

と、その時、水が地を打つ音がそれまでの静寂を打ち破った。

「・・・・・雨・・・?」

顔を上げて外を見ると、バケツをひっくり返したような雨が地を打ち付けていた。

「すごい雨だな・・コンラッド大丈夫かな・・」

おれはゆっくりと立ち上がって、少しだけ、と鍵をはずして小屋の外に出た。

濡れるのも構わずに街の方を見てみると、先ほどまであがっていた煙は

この雨のせいなのかすっかりと見えなくなっていた。

そのことに安堵の息を一つついて、おれは再び小屋の中にもどった。

「うひゃー。こんなに濡れてたらコンラッドに怒られるかな・・・」

急いでかわさなくちゃと、おれは火に先ほどコンラッドと二人で拾って来た薪を

くべながら火にあたっていた。

温かくて気持ちが良くて、おれは何時の間にが目を閉じていた。






微かに人の話し声が聞こえて、おれは目を覚ます。

いつの間に寝ていたんだろう。

まだ半開きの目をこすりながら声がした方を見やる。

「助かった、こんなとこに小屋がある」

「雨が止むまでここにいるとしましょうか」

聞いたことのないその声に、先程何度もコンラッドに言われた台詞が蘇る。



『絶対に誰も入れないで下さい』



大丈夫。

鍵はしっかりかけてある。

大丈夫だ。

・・・。

あ、れ…?

さっき外に出た後、おれ、鍵かけたっけ?

ごくりと唾を飲み込んでいる間に、ぎしりと音をたてながら扉は開かれていた。








「ユーリが眞魔国にも地球にもいないとはどういうことだ!?」

眞王廟についた俺は、未だ少女のような幻視巫女に思わず詰め寄っていた。

「落ち着け、コンラート」

普段よりも低い声でグウェンダルが止めに入る。

「しかしグウェン、陛下の一大事なんだぞ!一体何が起きている!?」

「落ち着けと言ったはずだ、コンラート。お前らしくないぞ」

「俺らしくない?いや、最高に俺らしいさ」

彼がいないだけで、俺はこんなにも理性を失う。

彼がいなければ、俺は――・・

一度深く息を吐き出してから、グウェンダルに向き直る。

「・・・・興奮してすまない。とにかく、事情を説明してくれないか?」

「陛下は・・・・」

それまで一言も言葉を発していなかった巫女、ウルリーケが口を開く。

「陛下は、現在の眞魔国にも、地球にもいらっしゃいません」

「それでは一体どこに・・・!!」

「未来の、眞魔国です」

「未来・・・・!?」

「理由はわからん。だが、数年後の眞魔国に陛下がいるのは確かだ。今、原

因を探っている」

重々しくグウェンが言って、俺は言葉を失う。

微かに指先が震えていた。

「小僧が戻ってこられるかどうかは、まだわからん」

「そ、んな・・・」

「とにかく、落ち着け。お前にも手伝ってもらわねばならん」

「あ、ああ・・・・ああ・・わかってる・・」

バン!

その時、大きな音を立てて眞王廟の扉が開かれた。

三人同時に扉の方を見れば、そこにいたのは王佐のギュンターと弟のヴォルフ

ラムだった。

二人とも思い切り取り乱した様子でこちらに駆け寄ってくる。

「どどどどどどどどういうことなのです!!!!??へへへ陛下がっ!!陛下が

いなくなったとは!!!」

「一体何があったというのですっ!!兄上っ!?・・・コンラートっ!説明しろっっ!!!」

「・・・・落ち着け、二人とも」

取り乱す二人を見て、俺は若干の落ち着きを取り戻す。

しかし所詮それは上辺だけのものではあったが。

「原因はわからないが、陛下は未来の眞魔国に行ってしまわれた。今からその

原因を探る。二人も手伝ってくれ」

思わず絶句する二人を置いて、俺は眞王廟から出るべく歩き出す。

「おい、どこへ行く?コンラート!」

「俺は一度陛下の部屋に行ってみる。何か手がかりがあるかもしれない」

「僕も一緒に行くぞっ!コンラート!!」

「わかった。私は文献を調べてみる。ギュンター、一緒に来い」

「・・・あ、お待ちなさいグウェンダルッ!このギュンター陛下の御ためなら不眠

不休で調べる覚悟ですッ!ああ陛下ッお可哀想に!さぞや心細い思いをして

いらっしゃることでしょう!すぐにこのギュンターがお迎えにあがりますっ!!」

後ろで皆が動き出す気配を感じながら、俺は己の腕を強く握る。

未だうっすらと残っている傷が、微かに痛んだ。



















***
長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんっ!!(汗)
話は進んだのか進んでないのか・・・(汗汗)





2008.01.08





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