月夜


暗い夜のことだった。
月明かりだけを頼りに、摩虎羅は今夜も己の主君である御方の命を受けて闇の中を駆けていた。
そこにふと、小さな影が映った。
その影には見覚えがあった。

──サスケ

胸がざわめいた。
止めようとしてもざわめきはおさまってくれそうにない。

ただ。
おかしな所があった。
サスケの様子が明らかにおかしいのだ。
ふらふらと、その足取りはとても頼りないのだ。
気づけば自らサスケへ近づいていた。
「・・・サスケ」
小さく呼びかける。
その声に反応してサスケがゆっくりと振り返る。
焦点の合っていない虚ろな瞳が自分の姿を捕らえた。
「・・・こ・・・たろ・・・う?」
熱でもあるのだろうか。
サスケの頬はとても赤かった。
「あは・・・こたろう・・だ・・・」
その声もとても弱々しい。
「へへ・・・」
サスケは頼りなく笑うと、摩虎羅の腕にやはり頼りなくしがみつく。
「サス・・・?」
その小さな体は驚くほど熱かった。
「駄目だな・・・幻まで見えてきた・・・」
「・・・え?」
「小太郎が・・・こんなトコにいるわけないもんな・・・」
「サスケ・・・」
「ごめん・・・」
微かに震えながら、必死に、放さないように摩虎羅の腕をつかむサスケの小さな手。
「・・・無様だな・・・。」
できる限り冷たく言い放つ。
そうでもしないとおかしくなりそうだった。
その言葉に反応したのかサスケの摩虎羅をつかむ力が強くなる。
「あったけぇ・・・」
「・・・は?」
「小太郎だ・・・。」
「何・・・」
「なぁ・・・オレさ・・・」
そう言ってサスケは一息つく。
呼吸がかなり荒く、辛そうだ。
「オレ・・・」
「・・・」
「お前はオレのこと憎んでても、オレは・・・」
ふとサスケが顔を上げる。
視線がかち合う。
いつかと変わらない、あの強い瞳。
そして。
「やめろ・・・」
摩虎羅は逃げるように目を逸らした。
「小太郎・・・」
「聞きたくない。」
「・・・ごめん・・・。」
いつも勝ち気な少年は、小さく頭を垂れた。
その細い首はいつにも増して頼りなく見えた。
それでもその少年の手はしっかりと摩虎羅の腕をつかんで放さない。
そして摩虎羅もまた、あえてその手を振り払おうとはしなかった。否、できなかった。

今、この腕の中にある温もりを求めてしまえばきっと自分が欲しいものは全て手に入る。
今、この小さな体を抱きしめて、一緒に笑うことができたなら──…

「小太郎・・・」

けれどそれは。
この身には許されないこと。
今の自分を否定してしまうこと。

わかっている。
この少年がどんなに温かいかも。
どんなに自分を幸せにしてくれるかも。

だからこそ。

「放せ、サスケ。」
「こた・・・」
乱暴に突き放す。
それでもサスケの手は力無く摩虎羅の腕をつかんでいる。
「放せ・・・。」
もっと他に言いたい言葉がある。
もっと他に伝えたい言葉がある。
「放せ・・・。」
でも今は壊れてしまったかのようにこの言葉しか出てこない。
「放せ、サスケ。」
「ごめん。」
ゆっくりとその小さな手は重力にまかせるままに下へ落ちた。
まだ腕にはこの少年の温もりが残っていて。
それをかき消すかのように自分の腕を乱暴にさすった。

「スキだ・・・」

呟くような声。
瞬間、胸に重みを感じた。
サスケが摩虎羅の胸に倒れ込んできたのだ。
「サスケ!?」
サスケが応えることはなく、ただ荒い呼吸を繰り返すだけであった。
「・・お前は狡い。」
こんな言葉だけを自分に残していくなんて。

そっとサスケの髪に口づける。
あの頃と変わらない匂いがした。


***


朝、明るい日差しの中サスケは目を覚ました。
「───ん?」
そこはいつも自分が寝ている布団の中。
「あれ?」
昨日は確か幸村からの命令で出かけていた。
そして、途中で具合が悪くなって・・・
それ以上の事が頭に靄がかかったかのように思いだせない。
あの状態でちゃんと帰ってこれたのだろうか。
それに、とサスケは自分が寝ていた布団を眺める。
自分で敷くわけがない。
「・・・幸村か・・・?」
思わず首をひねる。
その時ふと、何か懐かしい匂いがしたような気がした。
同時にどうしようもないくらいの切なさが胸を駆ける。
「あ・・・れ・・・?」
気づくと目からは涙が零れ落ちていて、慌てて手で拭う。
「なんで・・・?」
一体昨日何があったのだろうか。
一体この胸に残る焦燥感は何なのだろうか。
ただ、大切なものをなくしてしまったような気がする。
大切なものを手放してしまったような気がする。
どうしたらいいのかわからなくなってサスケは枕に顔を埋める。
するとそこからもあの匂いがした。
それは焦燥を自分に与えると同時に何故か自分を安心させてくれるもので。
せめてこれだけは逃さないようにと、放さないようにと。
サスケは枕を強く抱いた。
やはりいつかと同じ匂いがした。





******

・・・何と言うか・・・マコサスでどうしようもなくイチャイチャしてるのを書きたいデス・・・(涙)





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