いつまで戦える?
いつまで走っていける?

いつまで、もつ?


消費期限



空は暗かった。
今は梅雨で、ここしばらく青空を見ていない。
サスケはひとつ小さく息を吐いて、空を見上げた。
腕が、チリリと痛んだ。
白い着物に紅い血が滲む。
敵の、最期の一撃だった。
油断していたわけではない。
だけど。

降りやまない雨に、体が濡れる。
地面にできた血溜まりも、いつの間にか無くなっていた。

「サスケ!」

呼ばれて、声のしたほうに目を向ける。
「幸村」
そこにあったのは自分の主の姿だった。
一緒に戦っていたのだから至極当然だろう。
「サスケ、腕、見せてごらん。」
そう言う幸村の表情は険しい。
「別に平気だ…これぐらい…」
「いいから。」
有無を言わせぬその声音に、しぶしぶサスケは腕を出した。
「…結構深いね。」
「大したことねぇよ。」
幸村は自分の着物を破くと、それをサスケの腕に巻いた。
じわりとすぐに布は血で染まる。
それに幸村は顔をしかめた。
「家に帰ったらちゃんと手当てしようね。」
軽く頭を叩かれる。
暖かいその手が心地好い。
「無理しちゃだめだよ?」
いつになく真剣な表情で言うと、幸村はゆっくりと歩き出した。
その後ろ姿から、何故か目が離せなかった。

ぽたり。
ぱた。
ぱた。
今日も雨が降っている。
嫌になるくらいの、雨。
ぼんやりと眺めて、ため息をついた。
「サスケ!ちょっと出かけてくるけど、サスケはお留守番しててね。」
「・・・はぁ?何で留守番なんだよ?」
「ん〜?ホラ、サスケはまだ怪我、治ってないでしょ?無理は禁物だからね。」
いつもの軽い調子に流されそうになるが、その物言いには引っかかるものがあった。
「・・・怪我をしているオレがついていったら、まずいようなトコに行くのかよ?」
聞くと、幸村は苦い顔で笑った。
図星の顔だ。
「そうだねぇ・・。でも、そんなに危ないわけじゃないよ。だからサスケはちゃんと休んでてv」
そう言って、頭を撫でる幸村に、何故かどうしようもなく腹が立った。
すごく、嫌だった。
だからその手を振り払った。
「じゃあ、行ってくるねサスケ。才蔵、行こうか。」
サスケのその反応を別段気にした風でもなく、幸村は立ち上がりながら言った。
結局、幸村がいなくなるまで、何も言えなかった。
当たり前のように幸村の後につく才蔵を睨み付けたりはしたが。

ぱたぱたと降る雨を見ながら、ふと思い出す。
この、真田の家に来た時のこと。
一体自分は、何のためにここへ来たのだったろう。
枕元に置いておいた刀をきつく握り締める。
力が入ったためか、怪我をした右腕がズキリと痛んだ。

『何のために・・・』

ズキリ。

『何のためにお前は・・・』

ふと、思い切ったようにサスケは立ち上がった。
怪我をした右手には、刀が強く握られている。
「オレは・・・」
ぎり。
唇をかみ締める。

いつも体からは血の臭いがしていた。
流しても流しても、消えない、臭い。
大嫌いだった。
でも、それでも良いと思えたのは。
あの日、幸村に会ってから、この体についた血は、幸村を守るためについたものになっスから。
血の臭いが強くなればなるほど、幸村を守ったということになるから。
そうでなければ、この血の臭いの染み付いた体が存在する意味なんて、きっと、無い。

いつも幸村と一緒に通る道を一人歩く。
雨だけど、傘なんてささない。
間違いない。
幸村の気配はこの先にある。
少し走った。
初めは小走りだったけれど、気づけば全力で走っていた。
サスケは苦しくなる胸を押さえた。
もう少し。
小さく幸村達の姿を見つけた。
幸村達と対峙している数人の男。
少し距離をおいたここにまで殺気が伝わってくる。

―刺客だ。

思った途端、サスケは刀を抜いて強く地を蹴った。

ガキン

幸村に向けられていた刀を弾く。
「サスケ!?何で・・」
幸村の視線を背中に感じたが、無視して刺客に斬りかかった。
強くは無い、思った。
そして高く刀を振り上げて斬りつけようとしたが、意外にも相手に止められてしまった。
ギリ、
このままなら押し切って斬れる。
そう思って力を込める。
その時、ズキリ、と腕が痛んだ。

しまった―・・

思った時には遅かった。
サスケの刀は弾かれ、一筋の光が、サスケに向かって振り落とされた。
もう駄目だ、そう思ってサスケは静かに目を閉じた。
しかし、予想していた衝撃は無く、そろそろと目を開いた。
すると、足元には先程サスケと向かいあっていた刺客。
目線をそのまま上にあげると、幸村が刀をしまっている姿があった。
自分は幸村に守られたのだ。
「ゆ・・き・・村・・・」
呆然としながら主の名を呼ぶが、幸村は振り向かない。
「サスケ!お前は何をやっている!!」
背後から才蔵の怒鳴る声が聞こえて、ゆっくりとした動作で振り向く。
辺りには数人の死体が倒れていた。
「幸村様の言葉を忘れたのか!」
凄い勢いで怒鳴る才蔵の顔を、直視できずに俯いた。
守られた―・・。
その事実に、ただ呆然とした。
「そんな怪我で戦って、もし死んだらどうするつも―・・・」
「―サスケ」
才蔵の言葉を遮るように、静かに、幸村の声が響いた。
幸村がこちらを向くことはない。
「・・家で待っているようにって、いったよね・・?」
いつになく厳しい声に、サスケは唇を噛んだ。
「何で来たの?」
「・・だ・・って・・」
「死にに来たの?」
「・・え・・?」
「怪我してるのに何で無茶するの?サスケは死にたいの?」
「違・・!」
「もういい。才蔵、行こう。」
幸村はこれ以上ないくらい冷たく言い放つと、とうとう一度もサスケを振り返ることなく歩き出した。
「幸・・・村・・」
「幸村様・・!サスケ、お前はとにかく先に家に帰って休んでいろ。」
才蔵の言葉に返事をすることもできず、ただただ遠くなっていく幸村の背を見つめていた。








ぱらぱら。
雨の音だけしかここには無い。
一人。
サスケはやっと一歩を踏み出した。
踏み出した道は九度山へ続く道とは別の、道だった。



























→NEXT















続きます。
初めての続きものです。
相当前から・・・多分1年くらい前から温めていた話です。

















2004.08.16up




ブラウザバックでお戻り下さい。




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送